福岡の帰りのラジオで

かまやつ氏がいやいや歌っていた『我が良き友よ』
そのB面
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知らなかったなあ
あの頃の芸能人は
この世にひとりしかありえない人ばっかだった


戦後の香りから戦前の香りに変わってきた時代に
抜糸できた


『想い出』
ゴールデン街にあるその店には
クロちゃんというマスターがいた
ぶっきらぼうな男なのだが
その正直さが好きで
ぼくは上京すると店を訪ねていた
その店が不思議なのだが
まだ酔っていないぼくでも
見つけるのに最低30分はかかる
まるで4号室のないアパートのように
右から探していっても左から探しても
どこにもないのだ
通りを間違えてるのかと一番街から二番街
そして三番街。。。
やっぱりない


そして そろそろいい頃だと言いたげに
忽然とその店は現れる
ぼくは店に入るとすぐマスターに文句を言う
「結界でも張ってるの?
来たいと思ってる客が来れないのに
これじゃ普通の客は入れないよ
はやるわけない」
「いいじゃんかよお
縁があれば来れるんだ」
「じゃ 炭酸」
ぼくは もう長いこと酒をやめている
「ばかじゃないのか
酒のない人生なんて何の楽しみがあるんだ」
マスターって ぼくの親父と同じこと言うなあと
思いながら薄ら笑いを浮かべていると
「ほれっ」
と炭酸が出てくる

そのうち Mさんが現れた
マスターもMさんも学生時代に
たいへんお世話になった
Mさんが元気なさそうに言った
「おれ 大腸がんになっちゃったよ」
「よかったじゃないですか」
いま思えば素面でよく言えたものだ
悪意はないのだが つい口から出てしまった
すかさずマスターがぼくをとがめた
「そんなこと言うもんじゃないぞ」
そのあとも楽しく会話ははずんだ
店の炭酸を全部飲み干すとぼくは腰をあげた
「また来ます」

マスターは元Mさんの従業員だった
やがてマスターが亡くなって
Mさんも亡くなった
その前にぼくにそっくりの従業員の方も亡くなっていた

学生時代にゴールデン街でお世話になった方々は
ほとんど亡くなった
それでも あと2軒残ってるなあ
いまだに通い続けている友人は
先日二度目の肺がん手術に成功した
また1日3箱煙草を吸いながら
一軒目ビール3本
二件目ウィスキー1本空ける
ルーティーンを繰り返すらしい

いろんな人生がこの街に沈んでいる