『美々津 ししかばや伝 おてる物語』

[第一幕] <舞台右手 美々津 余吉の家 おてる、産婆、美代は室内>

おてる(赤ん坊): おぎゃー! おぎゃー!(泣き声続く)<家の外(舞台右)に立っている余吉 壁越しに話す>
余吉: どっちじゃあ?
産婆: 玉のような男の子ですわー!
余吉: ならさっさとやっちくりぃ!
美代: ちょっとあんた…
産婆: (W)そうですかぁ? とってもいい子ですけんど
余吉: いいからやっちくりぃ! わしゃ男は好かんのじゃ!
産婆: んじゃスカタねえすなあ<赤ん坊に座布団をのせる>
ぼうや ごめんな ちーっとばかり我慢してくんろ
美代: (W)ちょっとやめてください お願いですから…(泣く)<座布団の上から踏みつけている産婆>
余吉: (W)ならんお美代! 男を産んだおまえが悪い!
産婆: (W)ンー! ンー! ンー!ん…?
(ため息)余吉さん こりゃあたれいわ!
いくら踏んつけても持ち上げてきよるよ! ものすごい力ですじゃ!
余吉: だめじゃぁ!やっちくりぃ 男ん子は必ずわしに災いをもたらす!
美代: あんた! 堪忍して!私こんなこともういやよ!(泣き続ける)
おてる(赤ん坊): (W)んぎゃー(泣き声大きくなる)<ひるんだ顔の余吉>
産婆: 余吉さんお願いですじゃ 私も力になりますけん!
この子はきっと余吉さんのためになる子になります!
余吉: …
美代: [あんたってば!]
余吉: そうか…(ため息)ま仕方ねえな いいだろう だけんど条件がある
美代: じょ条件? なにそれ?
余吉: わしの目の黒いうちはそん子を女の子として育てるんじゃ いいな?
美代: [そんな! ニューハーフにしろって言うの?]
余吉: いやわしもそこまで鬼じゃない 別にタマを取れとは言わん
戸籍も女 名前も女じゃ ベベも女もんじゃぞ
そうじゃな名前はわしの初恋の女
てるにしよう おてる… (ため息)いい女じゃった…
美代: (W)[そ… そんな…]
おてる(赤ん坊): (女っぽい声で)おぎゃ あーん!