『ありがとう星人』

お月さまも出ていないまっ暗な夜でした
ひろーい砂漠の真ん中に
ちいさな種が落ちていました
それはリンゴの種でした
きっと どこかの旅人が
リンゴを食べて
その芯をポイと捨てたんでしょう


砂漠でも夜露はあります
それでリンゴの種は芽を出す気になりました
殻がパカッと割れて
リンゴの芽が出てきました
「よいしょ よいしょ」
やがて根っこも出てきました


朝になると
リンゴの種はちょこんと
ちいさな緑色の双葉を出していました
ちょっぴり自慢げです
だんだん お日さまが高くなってきました
そして ジリジリと照りつけます
「わっ 暑いなあ ひからびちゃうよ」
そう思ったときです
急に日陰になりました


ドッシーン!
大きなものが空の上から落ちてきました
やっと双葉を出したリンゴの種は
下敷きになってしまいました


でも その落ちてきたものは
そのままじっと動きませんでした
お昼になっても動きません
夕方になっても動きません
生き物じゃないんでしょうか?
それとも
死んでしまったのでしょうか?
「重たいなあ
やっと芽を出したのに
わたしも このまま死んじゃうの?」
種は とても不安になりました


そうして夜になりました
「○◎▲×△…」
落ちてきたものが何かぶつぶつ言っています
どうやら生きていたようです
それは むっくりと起き上がると
大きくひとつあくびをしました
「あ〜あ」
そして お空を見上げて
また何やらぶつぶつはじめました
種には何を言っているのか さっぱり分かりません
種は地球にいる人間や動物の言葉なら分かるのに
おかしいなと思いました